Optical fusion gateによるグラフ状態の作成
さて、どうやってグラフ状態を作るかですが、量子光学系では、Fusionゲート[D. E. Browne and T. Rudolph, PRL 95, 010501 (2005)]
というものがあります。量子光学系の場合、1キュービットゲートは簡単ですが、2キュービットゲートは難しいです。
特に、CZゲートは確率的にしか実現できないので、小さなグラフ状態をFusionゲートで確率的にくっつけていき、
大きなグラフ状態を作る戦略をとります。
FusionゲートにはType-IとType-IIの2種類あります。まず、Type-Iは次のようなセットアップを用います。
ただし、このPBSは
のように働きます。
これのインプット状態を最も一般的に、
と書きます。ダイレクトな計算により、測定直前のアウトプット状態状態は、
となることが分かります。
したがって、光子を1個も検出しない場合、
H光子を2個、V光子を0個検出した場合 あるいは H光子を0個、V光子を2個検出した場合、
H光子を1個、V光子を0個検出した場合、
H光子を0個、V光子を1個検出した場合、
となることが分かります。
つまり、キュービットの言葉で言うと、
という状態がインプットのときに、
という4パターンのアウトプットを出す操作をしています。
特に、インプットが2つのグラフ状態の場合、下のように、グラフ状態をつなぐか、切る、という操作になっているのです。
Type-IIは以下のようなセットアップを用います。
Type-IIの場合は、光子数を区別して検出しなくても良い、という利点があります。
Type-IIをつかわずに、効率的に2次元クラスター状態をつくる、という方法もあります[G. Gilbert, M. Hamrick and Y. S. Weinstein, PRA 73 064303(B) (2006)]。
物質系(NVセンター、量子ドット、イオン、原子等)をキュービットに使い、その間を光を介してエンタングルメントをつくる、
という分散量子計算の方法があります。その際に使えるのが
Barrett-Kokのdouble heralding法です[Sean D. Barrett Pieter Kok, PRA 71, 060310(R) (2005)]。
それを説明します。物質系は、下の図のような、2つのLow-lying stateと1つのExcited stateからなる系を考えます。
πパルスをかけると、|1>→|e>なる遷移が起きるとします。
さて、まず、最初に、2つのキュービットを|+>=|0>+|1>の状態にします。
次に、各キュービットにπパルスをかけます。光子検出器で光子を検出するまで待ちます。
検出したら、それぞれのキュービットに、ビットフリップXをかけます。
またπパルスをかけて、光子が検出されるのを待ちます。
もし、この2回の検出において、2回とも、光子が片方の検出器にのみ検出された場合、成功です。
それ以外は失敗です。
さてまず、最初のπパルスの後の状態は
です。mは物質系で、pが光子系です。ビームスプリッターを通過すると、
となります。
もし、片方の検出器(例えばD1)だけが光子を検出したら、物質系は、
|01>-|10>
|11>
の2つの状態の混合になります。
次に、物質キュービットに、ビットフリップXをかけます。すると、
|01>-|10>
のほうは変化しませんが、
|11>は|00>になるので、もはや光子を出しません。
|01>-|10>
のほうは、しばらく待つと、光子を出します。ビームスプリッターに通して、検出すると、片方の検出器のみが
光子を検出したとき、物質系は
|01>+|10>
または
|01>-|10>
となります。こうして、物質キュービットを、Maximally entangled stateにすることができました。
実は、この方法を使えば、グラフ状態を作ることもできるのです。実際、下の図のようになることが直接の計算で確認できます。
図のように、2つのグラフ状態の各キュービットにBarrett-Kok (BK)スキームを使うと、成功した場合、
測定結果m=0,1に応じて右上のようなグラフ状態になります。
失敗した場合は右下のように、グラフ状態がつながりません。
参考文献:
R. Raussendorf and H. J. Briegel, A one-way quantum computer, PRL86,5188 (2001) Measurement-based量子計算が最初に提案された論文。
R. Raussendorf, D. E. Browne, and H. J. Briegel, Measurement-based quantum computation with cluster states, PRA68,022312(2003) そのFull paper。
F. Verstraete and J. I. Cirac, Valence bond solids for quantum computation, PRA70,060302(R)(2004) Measurement-based量子計算の、VBSおよびテレポーテーションによる解釈
R. Jozsa, An introduction to measurement based quantum computation, arXiv:0508124, Jozsaによる解説記事
M. A. Nielsen, Cluster state quantum computation, arXiv:0504097, Nielsenによる解説記事
R. Raussendorf and H. J. Briegel, Computational model underlying the one-way quantum computer, Quant. Inf. Compt. 6, 433 (2002). Raussendorfによる解説。
R. Raussendorf and H. J. Briegel, Computational model for the one-way quantum computer: concepts and summary, arXiv:0207183, Raussendorfによる解説。
D. Browne and H. J. Briegel, One-way quantum computation-a tutorial introduction, arXiv:0603226, Browneによる解説。
D. E. Browne and T. Rudolph, Resource-Efficient Linear Optical Quantum Computation, PRL. 95, 010501 (2005) Fusionゲートが提案された論文。
T. P. Bodiya and L.-M. Duan, Scalable Generation of Graph-State Entanglement Through Realistic Linear Optics, Phys. Rev. Lett. 97, 143601 (2006). こちらも参考に。
Sean D. Barrett Pieter Kok, Efficient high-fidelity quantum computation using matter qubits and linear optics, Phys. Rev. A 71, 060310(R) (2005) 上で説明したBKスキーム。